Possibility alternative Ⅰ(01/11) [小説]

これはチラシの裏に書き留めるような駄文です。
どっかで見たような設定だったりしても気にしない!というか気にする人は読まない方がいいです。
この物語はフィクションです。
登場する人物・地名・団体は実在しませんし、似ていても全くの別物です。
駄文を読みたい方はそれを理解した上で、自己責任の下続きをご覧ください。



皇紀2660年(西暦2000年)5月17日 愛知県愛西市 AM01:39――――
本来ならば夜の静けさが支配し、人々が眠りについているこの時間。木曽川付近に位置し、別名
を名古屋と呼ぶ西方第四都市・尾張に程近い街々の多くは喧騒の真っ只中にあった。
正しくは、かつて街だったというべきだろう。
そこは多くが瓦礫の山と化しており、所々僅かに残っている建物の土台が、かつて暮らしていた
人々の痕跡を申し訳程度に留めているに過ぎない。廃墟と化した夜の街に響き渡る連続した発
砲音と、銃弾を弾く乾いた音に肉を穿つような鈍い音。これに時折爆発音が入り混じり、規則性
を欠くそれはさながら不出来なオーケストラの演奏会場のようだ。
そして、この演奏会の奏者は二組存在する。
一組目は四階建てビルほどの高さを持つ、機械仕掛けの人型兵器。
彼らは各々が手にした銃で一斉射撃を行い、肉を穿つ鈍い音を生み出していく。
そしてもう一組は、昆虫を象ったような形状を持つ巨大な生物。
直立すれば人型兵器を凌ぐであろう大きさを持つ彼らは、愚直に突撃を繰り返しては多くが蜂の巣
にされていくが、時折銃弾の雨を耐え凌いで到達すると、お返しとばかりに人型兵器を薙ぎ払い、
踏み潰し、屠っていく。
それでも戦況は人型兵器、即ち人類の方が僅かに優勢だった。
突撃型と呼ばれる射撃効果の薄い敵に対しては背後に回りこむように攻撃を行い、虐殺型と呼ば
れる近接攻撃が主な敵に対しては弾幕を張って上手く牽制しつつ間合いを詰めて倒していく。
相手の数は非常に多かったが、この繰り返しによって確実に追い詰めていった。
だが木曽川に残り一km付近の距離まで来たとき、戦況が一変する。
対岸の多度山の麓付近から、狙撃型と呼ばれる敵の遠距離攻撃に晒されてしまったのだ。
幸い狙撃型の数は多くは無かったが、人類が未だ開発出来ない長距離レーザー兵器であり防衛手
段が限られること、人類側の射程外からの攻撃で支援攻撃を阻止出来ない事から、平地で対する
には非常に危険な相手である。従って戦線の崩壊を防ぐためにも、部隊は遮蔽物の残っている地
域へ一時的に後退せざるを得なかった。

この情報は猿投山の麓に布陣する総司令部にも伝達され、日本帝国軍の幕僚は俄かに浮き足立
っていた。
本格的な戦闘開始から既に七時間以上、部隊の稼働時間は既に一四時間が経過し、定期的に予
備兵力と部隊を入れ替えながら戦線を推し進めてきたが前線に立つ兵士の疲労は色濃い。
そこへ齎された敵長距離狙撃型の参戦という情報は、後方で指揮する彼らを動揺させるには十分
な材料だった。
机の上に置かれた一枚の地図は、中部地方と北陸地方のもの。そこに現在の部隊配置の様子が
示され、机を挟んで大の大人がああでもないこうでもないと喚き散らしている。
ある者は富山・石川の部隊で岐阜を経由して援軍に回すべきと主張したが時間が足りないと反論
を受け、またある者は鷹巣まで後退すべしと主張したが岐阜の部隊を危険に晒すと反論に遭い、
意見はなかなか統一をみない。
そんな状況の中、一人沈黙を貫いていた人物がいた。年の頃は二十代半ばから後半の青年将校
といった感じだが、他の幕僚が茶色を基調とした軍服に身を包んでいるのに対し、彼は白地を基調
に所々紫をあしらった軍服を着用し帯刀している。
名刀・鬼丸――――鬼丸国綱とも呼ばれるその刀は皇室所有の御物であり、軍事面に於ける帝の
全権代理人たる証。
それを持つ彼の人物は、日本帝国征夷大将軍・御剣清十郎。日本帝国軍の全権統帥者である。
「撤退は、ない」
結論の出ない論争に嫌気が差したのか、清十郎は静かに断固たる口調で一同に告げる。
「今回の作戦は中部・北陸地方を奴らから奪還し、我ら日本帝国は奴らに屈しない事を示すこと
で国土を取り戻せるという希望と安寧を国民に知らしめる。これはその為の最初の一歩なのだ。
撤退など断じて有り得ない」
その言葉に一同がはっとする。
国土の約半分を人外の生物に奪われてから二年。その侵攻を沼津手前で喰い止めながらも、殆ど
は生活圏を奪われて箱根以東に押し込められた日本帝国の反抗作戦。
昼間の活動が鈍いという習性を利用したこの作戦は、H.E.B.Lを関ヶ原手前まで押し返し、木曽川以
東を奪回することで完了する。それ故に不足している戦力を補うため国連軍に補給を含む協力を仰
ぎ、帝国軍は保有兵力の七割と予備貯蔵補給物資の六割を戦線に投入する大胆な戦略を採った。
その甲斐あって、日暮れ前には第四西都・尾張まで一気に奪還する事が出来たのだ。
その尾張方面は動員したうちの六割強、国連軍も併せて全体の八割弱の戦力が投入されている。
これが現在の日本帝国軍が動員出来る戦力の限界であり、作戦が失敗すれば国土解放は不可
能と言っても過言ではない。場合によっては赤紙による民兵の強制徴兵制度を復活させねば、国
土防衛も覚束無い事態に陥る可能性も考慮される。
「とは言いますが、具体的にどうするというのですか?」
「前線の兵は既に限界が近い。このままでは全軍潰走にも繋がりかねませんぞ」
頭では清十郎の言葉を理解しながらも、幕僚たちは疑問を口にする。何故なら彼は方針の再確認
を行っただけで、具体的な対処法を語っていない。それに対し清十郎はただ一言、「今は耐える時
間だ」とだけ告げた。
清十郎の答えに釈然としない幕僚の一人が更に質問を続けようとしたとき、仮設本営に設置され
た通信機が呼び出し音を発する。質問を遮られた幕僚はやや憮然としながら、スピーカーモードで
通信機を繋ぐと、若い士官の声で海軍の防人第参艦隊が目標地点に到達した旨が告げられる。
清十郎は作戦行動への即時移行と第伍中隊への前進を指示するが、これには他の幕僚も驚きを
禁じえなかった。
平地で狙撃型への対抗手段を持ち合わせていないが故に後退した部隊を再び前進させるのは、
彼らに的になって死ねと言うのも同義である。それほどの犠牲を強いてまで作戦に拘る必要性が
あるのか?そんな不安の色を隠せない幕僚達に対し、清十郎は不敵な笑みを浮かべていた。

愛知県と三重県を隔てる木曽川は、そのまま太平洋へと流れ込んでいる。
その木曽川河口から南下することおよそ二〇km。
愛知県と三重県の間にある伊勢湾海上には、地上部隊の側面を支援しつつ西進していた日本帝
国の艦隊が展開していた。
『毛利弐佐、作戦行動を開始せよとの命令が下りました』
「了解した。では手筈通り、発艦六〇秒後に所定の座標へ向けて艦砲射撃を開始せよ」
赤と黒のツートーンで染められた人型兵器、その操縦席で毛利と呼ばれた男は通信に応えた。
海上防衛用の帝国海軍、その名を鎌倉時代の元寇に対する備えとして配備された防人にちなん
で『防人艦隊』と呼び、八方護家と呼ばれる八つの家柄が命令権を有している特殊な存在である。
そのうちの一つ、毛利家は防人第参艦隊の命令権を有していた。
とはいえ、あくまでも現場の指揮権は艦隊司令官のものであり、八方護家は配備されている部隊
の一部を借り受けることが可能な程度である。勿論中には艦隊司令官を兼務している者もいるが、
彼・毛利彰正弐等海佐の場合は前者に該当するのだ。
「この戦いは帝国臣民のみならず、世界中が注目していると言っても良い戦だ。我ら帝国軍人の
技術と度胸、そして底力を知らしめる絶好の機会だ。臆することなく存分に示せ!」
戦意高揚を図る彰正の声に、通信からは同調する声が次々と上がる。齢43を重ね、頭部に白い
ものが混じりながらも多くの戦場を潜り抜けてきた歴戦の勇者の言葉は、味方を鼓舞するには十
分な役割を担ってくれた。士気が十分に高い事を確認し、満足そうに頷いた彰正は国連軍から借
り受けた空母から自らの機体を発進させると、水飛沫が辛うじて上がらない海面ギリギリを滑空さ
せた。彼に次いで順次発進した第参艦隊の部隊もそれに倣う。
「さて。新たな征夷大将軍、そのお手並み拝見と行こうじゃないか」
現行速度での予想作戦空域到達までは一三七秒。
彰正は操縦席で一言呟くと、揮下の部隊共々指定座標目指して伊勢湾内を北上していく。

その頃、地上部隊では今までと異なる動きが起こっていた。
本格的な戦闘が始まり、他の部隊が入れ替わり立ち替わりで戦線を押し上げていた中、唯一それ
に加わらずに後方で待機していた部隊。
それが東海方面軍第四鉄甲師団揮下、第伍突撃中隊である。
彼らには機体を覆い隠す事が出来る4枚の巨大な分厚い盾と、戦線後方での待機命令が与えら
れていた。同時に盾の取り扱いには注意がなされ、とりわけ表側への傷の付着を行わぬように厳
命された。
狙撃型の参戦によって戦線を一時的に後退させ、他の部隊が猛攻を凌いでいる最中もまた、彼ら
は後方に控えて戦いに加わる事もしなかった。彼らがやっていたことは、味方が奮闘する様子をた
だ後ろから眺めていただけであり、いかに命令であろうとも彼らの胸中には見守る事しか許されな
い自分達に対する忸怩たる思いがあった。
そんな彼らの下に、前進せよという総司令部からの新たな命令が届く。しかし彼らには新たな命令
が届いた喜びよりも、命令の内容に対する不安の方が大きかった。何故ならば、前進して戦線か
ら突出するという事は、狙撃型の的になる事を意味している。
この命令は、決死隊になれという意味だと彼らは理解した。自分達に狙撃型の攻撃を集中させ、そ
の隙に別働隊が狙撃型を排除するための囮。そう考えれば今まで待機命令が出ていたことにも納
得はいく。
理不尽と思える命令だが、軍人である以上拒否する事は出来ない。ましてや征夷大将軍直々の命
令である以上、それは帝の勅命にも等しいのだ。それを拒否する権限など、彼らには存在しない。
気休めにしかならないだろう。そう判っていながらも彼らは盾を所持し、命令を遂行するために動き
始めた。
与えられた盾を両手で正面に構え、第伍中隊は前進を開始した。ただし前進したのは八機で、残り
の四機は本隊に残って支援攻撃を行っている。配備された盾は前方を視認出来ないのが難点では
あるが、そもそもレーザー光を確認した時は既に着弾した後であり、逐一防御体制をとっていたの
では間に合わない。それならば最初から防御体制をとっておいた方が効率が良い。
中隊各機は目視による確認ではなく地形データと動体センサーの反応を頼りに、前方に展開する
敵の対処を余儀なくされることとなった。
当然のことながら、この突出した第伍中隊の動きを相手も見逃してはくれない。後方に控えている
狙撃型からの攻撃が、それぞれの盾に命中する。前進した第伍中隊のメンバーは、それぞれが自
らの死を覚悟した。だが……
五秒経過――――盾はびくともしない。
八秒経過――――盾の表面が高温で赤く変色していく
一三秒経過――――高温のあまり、盾が変形を始めていく
一六秒経過――――レーザーの照射点が徐々に融解していく
だが、変化はそこまでだった。狙撃型からのレーザー攻撃が止まったからだ。
彼らは知らないが、この盾はアメリカの宇宙開発技術のノウハウを取り入れた代物。
スペースシャトル船底に備え付けられた、大気圏突入時の摩擦で発生する高温にも耐えうる耐熱シ
ールドを分厚い鋼の板の表面に何重にも渡ってコーティングした特注の盾である。
これを作り出すために日本帝国は莫大な出費を余儀なくされたが、用意しておいた意味は十分にあ
った。大気による威力減衰の恩恵もあるが、それでも狙撃型のレーザー攻撃を完全に封殺して退け
たのである。尤も、一回しか耐えられない高価な使い捨ての盾だったが、効果としては十分だった。
突出していた第伍中隊は狙撃型の攻撃を防ぎ切ったが、逆に敵中で孤立する結果となった。長時
間の戦闘による疲労と狙撃型の攻撃を警戒するあまり、他の部隊による戦線の押し上げが鈍いの
だ。望外の幸運によって命を繋ぎ止めた彼らだが、ここからは自分達で活路を抉じ開けるしかない。
彼らは用済みとなった盾を放棄し、それぞれが目の前に迫り来る敵の対処に追われることとなる。
周囲を取り囲まれ逃げ場を失っていくが、それでも彼らの命脈は未だ尽きていなかった。

一方、海上から低空で侵入していた毛利彰正率いる第参艦隊の部隊はそれを見ていた。
多度山の麓から放たれた光は東の方向を目指し、夜空に幾条の光の糸を作り出していた。その間、
およそ二〇秒。光源を探し出して捕捉し、射程に捉えるには十分過ぎる時間だった。
彰正らは高度を上げて加速すると、一気に目標地点へと到達する。
本来ならば狙撃型を倒すには同じく遠距離からの狙撃がセオリーとなるが、今回ばかりはそれに当
て嵌まらない。何故なら相手は連続照射を終えたばかりであり、この状態からではどんな兵器や生
物であろうと瞬時にチャージして第二射を放つ事は出来ないからだ。
加えて他の狙撃型の存在を考慮する必要は無い。前線や無人偵察機からの事前情報に依れば、
今回の狙撃型は先程攻撃を終えた四体だけである。
彰正率いる第参艦隊の部隊は相手が気付くよりも早く接近すると、多度山に陣取った狙撃型を蜂
の巣にしていった。
『狙撃型の沈黙を確認』
「良し。これより我々は地上部隊と連携し、戦線を押し上げる。各機、味方の攻撃に当たるなよ」
標的の殲滅を確認し、次の指示を与えながら機体を廻らせ地上の様子を見ると、暗視モニターで一
部の部隊が敵中に孤立している様子が窺えた。だが伊勢湾に展開していた第参艦隊からの艦砲射
撃が、想定通り彼らの周囲に集まった敵をピンポイントで撃ち倒していく。
あとは彼ら第伍中隊が本体と合流するのを援護し、戦線を押し上げれば任務完了である。
「ここまで正確に予測出来るとは、我々はとんでもない大将を頂に迎えたのかも知れんな」
清十郎の戦略眼に薄ら寒いものを感じながら呟くと、彰正は味方の砲撃に当たらないよう慎重に地
上へと向かって行った。

『防人第参艦隊より入電。敵狙撃型の沈黙を確認、我が方の損害は認められず。これより地上部
隊の支援攻撃を開始する』
「地上部隊に通達!敵狙撃型は排除された、残る力を振り絞って奴らを押し返せ」
総司令部に入った一報で幕僚達がどよめく中、清十郎は前線部隊に前進を指示する。
通信士官が命令を復唱し、最前線へ伝達する声を聞きながら、ほんの少しだけ顔を綻ばせた。
反攻作戦の立案に当たって清十郎が最も腐心したのは、夜間戦闘が予想される愛知県の平野部、
とりわけ十中八九出てくるであろう狙撃型参戦時の対応策だった。
通常の対応策としてはA.L.M(対レーザー用ミサイル)を撃ち込む事で狙撃型の攻撃を押さえ込み、
その間に長距離狙撃か戦機刃の機動性を生かした一撃離脱戦法が基本となるが、長時間の進軍
と戦闘で疲弊した前線の兵士に、そこまで機敏な対応を求めるのは酷だと判断した。
加えてこの対応策では狙撃型より長射程を持ち、戦機刃を一瞬で蒸発させる程の威力を持つ砲撃
型が参戦した場合は意味を成さない。故に相手の攻撃を牽き付ける囮役を地上に、強襲用の部隊
を海上に配置して短時間の排除が可能な対応策を用意したのだ。
無論盾による防御は『あくまで理論上は可能な手段』だったが、ぶっつけ本番の戦術にしては想定
以上に良好な結果が得られたのは大きかった。
何よりこれは、御剣清十郎が征夷大将軍となって初の大規模作戦であり、人類史上初ともいえる反
攻作戦でもある。成功に終われば政府内は無論のこと、軍部内でも彼の手腕を疑問視する者たち
を黙らせ、次回以降の反攻計画が進め易くなる、というものだ。
地図上に表示された青い光点が赤い光点を押し返していく様を見届けながら、清十郎は誰にも気付
かれぬよう安堵の吐息を吐いていた。
この数時間後、彼らの戦いの推移は世界中に伝播し、驚愕を持って受け入れられる事となる。

[to be continued]



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