Possibility alternative Ⅰ(05/11) [小説]

これはチラシの裏に書き留めるような駄文です。
どっかで見たような設定だったりしても気にしない!というか気にする人は読まない方がいいです。
この物語はフィクションです。
登場する人物・地名・団体は実在しませんし、似ていても全くの別物です。
駄文を読みたい方はそれを理解した上で、自己責任の下続きをご覧ください。



「買い出し、ですか?」
「そうだ。本日如月参尉・鷹梨参尉両名には、我が隊に於ける買い出しを担当して貰う」
翌午前中。
鷹梨浩太と如月舞依は岩本の執務室に呼び出され、お互いに気拙い顔を合わせることとなった。
最前線の駐屯地には武器弾薬や予備パーツ、食料などが定期的に補給されるが、実際は補給物
資だけで賄いきれるものではない。弾薬や機体予備パーツなどは大量に必要だが一度に運搬可
能な量には限りがあり、戦線を維持出来得る最低限の物資に絞った補給を行わないと、必要な物
資が不足して戦闘不能な事態に陥る可能性を考慮しているからだ。
故にタオルや女性兵士の生理用品といった日用雑貨、酒類やタバコなどの嗜好品は補給物資に
含まれず、現地に於いて民間から購入するよう義務付けられている。これは軍事費の負担軽減と
いうより、最前線の兵士によって地方経済を回復させ、日本経済を回す意味合いが非常に強い。
本来なら必要とする本人が買いに行くのが一番良いが、石川県は全域が一般市民の立ち入り禁
止区域となっており、物資購入は隣県の富山に赴くしかない。その為、部隊毎に各々が必要な物
資リストを作成し、必ず男女一名づつが購入に赴く事となっていた。
さすがに蛍光灯やトイレットペーパーといった、基地施設の消耗備品に関してだけは必要経費とし
ての計上が認められているが、費用は基本的に購入者の自己負担である。
如月舞依にとって現地視察は本来の任務の一つであるため問題はないし、恐らく次の出撃機会
は少々先になるであろう事を覚悟している。その理由は、彼女の機体の整備性にあった。
日本帝国の戦機刃は国土に山間部が多いという地形の特性上、近接戦闘とそれに伴う運動性や
機動性を重視した仕様になっている。必然機体構造は複雑となり、他国の戦機刃と比較して整備
性が低く再出撃に要する時間も長くなる。
中でも舞依が乗る試作第三世代型は、高コストに反比例して極め付きに整備性が低いのだ。
これが高性能第三世代型を開発しながら量産出来ない要因であり、現在この問題を克服する量産
型開発計画と現行機体性能を試作第三世代相当まで引き上げる強化計画の双方が進められてい
る。そういった事情もあり、本来中隊を構成する不知火や陽炎の整備が優先され、時間が懸かる
ゲスト機の御速は整備が後回しにされている。
何より前回の戦闘に於ける状況判断ミスで中隊を危険に晒した負い目もあり、買い出しという任務
自体に不満は無いが、彼女にとって問題なのは『鷹梨浩太と一緒だ』という点である。
現状で一番顔を合わせたくない相手だが、緊急出撃命令<スクランブル>が掛かった際に自機を使
えない舞依としては誰かに代わって貰うわけにもいかず、かといってパートナーを代えて貰おうにも
鷹梨浩太には先の戦闘に於ける独断専行のペナルティも含まれている。
渋々ではあるが、彼女はこの命令を受領するしかなかった。
「それでは出発しますよ、如月参尉」
「ああ、宜しく頼む」
(あれ?)
配備されている三三式小型トラックに乗り込みながら、如月舞依は小さな違和感を覚えていた。
口調は普段と変わらないが、そこに込められた感情がいつもと異なる気がしたのだ。

第四駐屯地は金沢市の北方に位置しており、富山県へと抜けるには山間部を通った方が遥かに
早い。実際、石川県と富山県を結ぶ道路が何本も存在するが、H.E.B.Lによる侵攻を受けた際に土
砂やトンネルの崩落によって通行止めとなり、石川県奪還後も復旧される事は無かった。これは
H.E.B.Lの侵攻を阻む天然の要害として機能させる意図もあり、わざわざ相手の侵攻ルートを増や
す必要性がなかったことが理由として挙げられる。従って富山県に出るためには一度北上し、日
本海沿いに東へ進む以外に地上での移動手段は存在しなかった。
(気拙い……)
如月舞依が助手席で購入リストに目を通しながらそんな想いを抱いたのは、車内の居心地の悪さ
を感じずにはいられなかったからだ。
恐らく普段の彼女なら与えられた任務を淡々とこなしただろうし、車内の沈黙を苦痛に感じるよう
な事は無かっただろう。しかし今の彼女は、感情に任せた昨夜の批判を引き摺っていた。
あれは言い過ぎだった、という思いが彼女の中にあり、謝罪する必要性を感じているものの、一度
きっかけを逃せば人付き合いを不得手とする彼女がそれを切り出すのは困難を極めた。
いつものように浩太が他愛ない話題を振ればきっかけとすることも出来たのだろうが、今日に限っ
ては黙々と運転に集中している。普段から任務中の私語を注意してきたこともあるが、昨夜の諍い
が決定的なものであることは疑いの余地など無い。
結局彼女はリストに目を通すフリをしつつ思考を重ね、どう切り出すべきか葛藤し続けていた。
「参尉、すまないが車を停めてくれないか?」
「――――緊急を要することでしょうか?」
深呼吸を行い、小さく気合を入れた舞依が切り出したが、浩太はちらりと視線を送ると再び前を向
いて問い返した。そんな反応に、彼女は危うく二の句を告げなくなりかける。
それでも舞依としては、怯むわけにはいかない。自身の性格を考慮すれば、ここで引き下がると次
の機会がいつ訪れるか知れたものではない。
緊張の汗を滴らせ、慎重に言葉を選び、挫けて泣き出しそうな感情を必死に堪えながら訴え、幾
度かのやり取りの末にようやく停車させる。そして、渋る鷹梨浩太に車外へと降りて貰うと彼の前に
歩み寄った。
「まず、手前勝手な私の要請を受け入れてもらった事に感謝の意を述べる」
ひび割れ、舗装の剥げた道路に正座して切り出すと、前方へ頭を垂れて平伏し言葉を続ける。
「そして、昨夜の件を謝罪させて頂く。あれは私の言い過ぎであった。貴官の、鷹梨参尉の内実を
理解せず、自身の感情と憶測に基づく非難を浴びせたのは不徳の致す所であり落ち度だ。本当
に申し訳なかった」
そう告げると、額を地に擦り付ける様に低く平伏したまま微動だにしない。
果たして彼は、謝罪を受け入れてくれるだろうか?
それとも諍いを蒸し返された事に腹を立てるだろうか?
期待と不安が綯い交ぜの心境で舞依が反応を待つ一方、想定外の行動に面食らい呆然としてい
た浩太だったが、頭を掻きながら「カメラを持って来れば良かった」と小さく呟いた。
「これも貴重な体験かな?如月参尉の土下座姿なんて、この先一生お目に掛かれないだろうし」
「なっ!?」
「それよりも先を急ぎませんか?どうも雲行きが怪しいので」
想定外の言い草に抗議の声を上げようとした舞依に対し、空を見上げながら浩太が告げる。所々
に青空が覗いているが彼の視線の先、西の空はどんよりとした灰色の雲が厚みを増していた。そ
れを確認した舞依は提案の正しさを認め、先を急ぐために車へと戻るが、形はどうあれ謝罪出来
た安堵感から僅かに顔を綻ばせていた。
「昨夜如月参尉が言った事は、当然のことだと思います」
石川県内を北上して海岸沿いの道路に出た頃、「独り言だと思って聞き流してもらって構いません
が」と前置きした上で、鷹梨浩太はポツポツと自身の経歴を語り始めた。
鷹梨浩太という人物は、幼い頃から困っている人を見過ごせない性分を持っていた。
他人が嫌がる事を率先して引き受け、虐めっ子には敢然と立ち向かう。その結果、自身が虐めの
対象に摩り替わっても文句一つ言わなかったが、自身で対処出来ない案件を安請け合いすること
はなかった。
それは他者を労わるといった代物ではなく、他者の利益を守るために自身を損なう自己犠牲の側
面が強く、自己の利益や名誉の対価としての行為でもない。それは『完全な形の無償奉仕」或いは
『正義の味方の精神』と言い換えても良かった。同時に現状を把握した上で、それを補おうとする努
力家であり、衛士を志した理由も『H.E.B.Lの脅威に晒される人々を守るために寄与したい』という
想いからだ。
当然、両親からは猛反対を受けた。慣例として軍属を義務化されている武家出身者ならまだしも、
鷹梨家は非武家の家系であり、国民として一定期間の軍属が定められていてもその義務を負って
いない。にも拘らず自分の息子が軍人、しかも最も死亡率の高い衛士を志すというのだから、反対
されるのは当然である。
それでも我を通し、義務教育終了後に教練学校へ進んだが成績は芳しくなかった。ただ不思議と、
転科や落第といった自身の進退が懸かる大事な場面では高い成績を修めていた。その状況は現
在も続いており、自身或いは隊員の窮地になると無意識に体が反応し、普段とは別人のような戦
い方を見せる。
「と言っても、僕自身が何をやっているか判らないんですよね。無我夢中というか、考えているのか
考えていないのか、それすらも。だから改めてやれと言われても出来ないし、出来たとしても仲間
を救えるとも限らない」
限定的とは云えど、如何に常人離れした戦闘技術を発揮しようとも限界はある。それは損耗率が
低くとも、決して0ではない現実が如実に示している。だからこそ、鷹梨浩太は自身の技術を成熟
させることが、より多くの命を救うと信じ努力を続けている。
そんな彼の独白を、如月舞依は恥じ入るような気持ちで聞いていた。
鷹梨浩太の着任は、第一次反攻作戦と前後している。それは人的損耗と物資の不足で日本帝国
軍全体が弱体化し、現在よりも補給を切り詰められた過酷な戦闘を強いられた時期でもある。
そんな状況の最前線で今日まで生き残って来た衛士を、事前情報と印象だけで弱いと断定した自
分の浅はかさが嫌になる。彼女にとって強さは一つの基準だが、鷹梨浩太は少なくとも心の強さ
を持っている。その事実を認めないわけにはいかなかった。

「すっかり遅くなってしまったな」
「仕方ないですよ。あのまま帰るのも、申し訳ないし」
帰路に着いた二人は雨が激しく叩き付ける音を聞きながら、そんな会話を交わしていた。
時刻は夕方の四時を少し回ったところだが既に空は暗く、午後から降り出した雨の影響で視界と
路面は悪化する一方である。
二人の買い出しは順調に進んでいたが、最後の最後でちょっとしたトラブルに見舞われ、出発が
遅れてしまった。きっかけとなったのは、最後に立ち寄った個人経営の雑貨屋である。
そこは鷹梨浩太が買い出しの最後に必ず立ち寄る場所であり、云わば顔馴染みの店である。尤
も、買い出しを担当する事が多い彼にとっては殆どが顔馴染みの店と言えるが、駐屯地まで片道
一時間半以上を要する事から、ここで最後の買い物と休憩をして帰途に着くのが常である。
ただし休憩に関しては店主の厚意によるものだが。
そして、トラブルは休憩中に発生した。
軍属を義務付けられている武家出自者と異なり、非武家出自者の子供は職業軍人に対する憧れ
を抱くものが多く、店主の息子である5歳の男の子もその一人だった。故に休憩中、彼の話し相
手となるのもまた、買い出しに於ける浩太の恒例行事の一つでもある。
客間に通された浩太の下へやってきた男の子は、知らない顔に怯えながらも浩太の傍らに座り、
いつものように話を聞き始める。そのうち如月舞依にも興味を示し、もっと間近で見ようと近付い
たときだった。
ひょっとしたら、舞依には幼い子供が何をしたいのか理解が及ばなかったのかもしれない。雑貨
屋の店主が無愛想と評した表情のまま彼女が見ると、それを威嚇と捉えたのか半べそになりなが
ら隠れるように浩太の背後へしがみ付く。慌てて浩太が彼女を窘めるが、逆に凄まれたことで少
年は泣き出してしまい、そこへ舞依が叱責を加えたことで事態は更に悪化してしまった。
その後少年を何とかなだめ賺して事無きを得たが、予定時間を大幅に超過して今に至っている。
「色々と迷惑を掛けてすまない」
「そんな事は。しかし子供を泣かせて、あそこまで狼狽する如月参尉の姿は意外でしたね」
「いや、あれは、その……幼い子供と、どう接すれば良いか判らなかっただけで」
そう受け答えながら、ついさっきまでの事を思い返す。
舞依自身は普段通りの対応をしたつもりだったが、子供に泣き出された挙句状況を悪化させた事
で混乱し、泣きじゃくる子供を浩太があやす間、自分の何がこういう状況を作り出したのか理解が
及ばず狼狽しっぱなしだった。
「まあ、男の子なら軍人に憧れたり興味を持つのは当たり前ですし、如月参尉は僕らと比べて異
質と言うか、毛色が違うと言うか。だから余計に興味を惹かれたんだと思います」
最前線に属する第弐突撃中隊のメンバーは歴戦の勇士と呼んでも差し支えは無いが、駐屯地に
滞在する普段の彼らからそんな姿は想像出来ない。とりわけ鷹梨浩太は軍服を着用しているから
こそ軍人と認識されているのであり、軍服を着ていなければ最前線で戦う衛士だと言っても大半の
人間は信じないだろう。だが、如月舞依は違う。
軍服の有無に関わらず、無意識の内に纏っている雰囲気が武人としての彼女を強烈に主張して
いるのだ。
浩太の言葉の意味が判らずにいた舞依だったが、この説明を聞く事で納得出来た。
軍服を着用せずとも軍人と判る自分と、着用しないと軍人とは判らない浩太。その違いを異質や
毛色の差という表現を用いたのだと諒解した。
「しかし、今日は随分と如月参尉の意外な一面を見せて貰った気がします。写真どころか、『最初
から記録映像に納めておきたかった』くらいに」
「貴官は何を莫迦なことを――――」
言っているのだ、と言いかけた舞依は、些か聞き逃せない発言が含まれていたことに気付いた。
「鷹梨参尉、最初からとはどういう意味だ?」
「えーと……参尉が基地で車両に乗り込んだ辺りから……ですかね」
舞依の詰問に対し、バツの悪そうな表情を浮かべて浩太は答えた。
それは即ち、浩太が彼女の葛藤を知りながら敢えて見て見ぬフリをしていた事を意味している。
舞依は恥ずかしさのあまり、自分の頬が紅潮していくのを自覚した。次に自分がからかわれてい
たのだと悟ると、怒りの感情が沸々と湧き上がっていく。
「それにしても……色々と悩んで、どんな手段で切り出してくるかと思ったら、いきなり土下座です
からね。度肝を抜かれるとは、まさにこの事で――――」
浩太がそれ以上の言葉を発する事が出来なかったのは、カチャリという小さな音が聞こえた後、
自身の左側頭部に堅い代物が押し付けられたからだ。わざわざ確認しなくとも、舞依が安全装置
を外して銃口を突きつけたのだと判る。
「命が惜しくばこの件に関して決して口外せず、二度と触れないことだ。判ったな、鷹梨参尉?」
恫喝とも言える台詞を吐き、浩太の承知した旨を確認した舞依は安全装置を掛けると拳銃を再び
仕舞う。
だが次の瞬間車に急制動が掛かり、反動で危うくダッシュボードに頭をぶつけそうになった。
「――――あれは非常に不味い状況です」
抗議の声を上げようとした舞依だが、浩太の指し示した先を見て言葉を飲み込む。停止した車両
の六〇mほど先、ヘッドライトに映し出された海岸線の道路は転落防止用のガードレールが拉げ、
富山と石川を繋ぐ唯一の道が削り取られたように消え失せている。
それは自力での帰還が不可能である事を意味していた。

[to be continued]


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