Possibility alternative Ⅰ(08/11) [小説]

これはチラシの裏に書き留めるような駄文です。
どっかで見たような設定だったりしても気にしない!というか気にする人は読まない方がいいです。
この物語はフィクションです。
登場する人物・地名・団体は実在しませんし、似ていても全くの別物です。
駄文を読みたい方はそれを理解した上で、自己責任の下続きをご覧ください。



衛士が着用するパイロットスーツは、伸縮性が高く薄い布地を用いて体に密着させている。これは
操縦者の意識で機体制御の補助を行う点と関節の稼動を極力阻害しないよう、裸体に近い状況を
作り出すのが目的である。同時にこれは簡易生命維持装置の役割を持っており、耐水・耐圧・耐寒
機能も備え、真冬の北極海に生身で放り出されても凍死せず数時間は耐えられる代物である。
更にヘッドセットには画像補正用のポインターが備え付けられ、ポインターから網膜に投射される情
報で映像を認識している。つまり機体操縦席はモニター類が搭載されず、全周囲を鉄の板で覆
い、ポインターから投射される映像を頭の中でモニター表示として認識を置き換えている。
このコックピットブロックに関しては全ての機体で規格統一されているが、どういう経緯で現在のコッ
クピットが完成したかを知る者は非常に少なかった。
出撃命令の下った第弐突撃中隊各員は、各々が与えられた機体へ搭乗を済ませると中隊長の岩
本を先頭に滑走路へと移動。順次離陸を開始し、迎撃地点へと進路を採る。御速の整備が間に合
わず出撃が見送られた如月舞依は、隊舎から無事な帰還を願いつつ彼らの離陸を見送っていた。
H.E.B.Lの集団が侵攻を開始したという報告が入ったのは二時間前であり、その時点で各部隊には
警戒態勢が発令された。
日本帝国軍は監視衛星と無人偵察機による空からの監視と共に、警戒線の至る所に配置した振
動及び動体センサーによって侵攻ルートの把握に努めている。これには起伏に富んだ日本帝国特
有の地形が関係し、上空からの監視では限界がある事と、想定侵攻ルートに予め人員を配置出来
ない人的資源の不足を補う措置でもある。その上空からの偵察情報によれば、今回の侵攻に狙撃
型は含まれておらず、代わりに闘士型と呼ばれる小型のH.E.B.Lが随伴している。
闘士型は六本の脚と3m程の体躯を持つ、多足歩行体としては最小の部類に入る個体種である。
足先は物を掴める様に人の手のような形状をしており、寧ろ多手歩行体と言い換えても通用する。
耐久力の低い部類だが集団行動することが多く、人間の探知能力に優れているため生身で捕捉さ
れた場合は逃げ切る事が困難な相手である。また、戦機刃の装甲を引き剥がし、握り潰せる腕力
と握力を有しているため包囲させると虐殺型以上に危険な個体であり、彼らの手によって屠られた
者は数え切れない。とりわけ闘士型は、H.E.B.Lの中でも好んで人間を喰らう事で有名であり、前線
部隊から恐れられている個体種の一つでもあった。
第四駐屯地から出撃した第弐突撃中隊は、予め割り振られた中央迎撃部隊の待機ポイントへ到着
する。防衛線を突破されれば包囲される危険なポジションだが、損耗率が低い事と高い戦果を挙げ
ている事から、迎撃に際して第弐突撃中隊は常に中央を任されている。
『敵H.E.B.L群が最終警戒線を通過、全機迎撃態勢を取れ』
機体の最終確認を進めていく最中、通信機が迎撃部隊司令部からの通達を吐き出す。それを聞い
た岩本は中隊用通信チャンネルのスイッチを入れた。メインモニターの右隅に六人、左隅に五人の
画像が映し出され、相互通信が確立した事を確認する。
「例によって我々は中央を任される事になったが、やるべき事はいつもと変わらない。各々が訓練
の成果を存分に発揮し、生き残る事を期待する」
『了解』
「特に但馬・小林の両参尉は今回が初陣である。両名とも生存を優先し、無理はするな」
『死の一〇分ってやつですか?心配し過ぎじゃないですかね』
岩本の言葉に、但馬と呼ばれた新人衛士が答える。
その返答を聞いて、岩本は一抹の不安を感じ取った。
最前線に立つが故に損耗率が高い衛士だが、彼らの戦死確率が最も高いのは初陣であり、戦闘開
始から最初の一〇分間である。これは初めて実戦を行う極度の緊張と恐怖が本来の能力を阻害し、
訓練通りに戦えないという心理的な面が作用している。緊張と恐怖がミスを誘発し、ミスが焦りを引
き起こし反応を鈍らせる。その心理的な焦りを立て直す事が出来ず、多くの衛士が戦場に散ってい
った。故に初陣の最初の一〇分間を、死の一〇分と呼び習わしている。尤も、実戦経験が少ない国
家や候補生の中には、旧世代型故に付いた因習と捉えている者も少なくないが。
教練学校時代の成績を見れば、二人が優秀な衛士候補生なのは疑いようも無い。しかし、優秀な
候補生が優秀な衛士になるとは限らないのが戦場という場所なのだ。
全ての衛士候補生は初陣を経る事で、初めて衛士としてスタートラインに立つ事になる。裏を返せば
訓練課程でどれほど優秀な成績を修めようと、死の一〇分を乗り越えない限り優秀な衛士となる資
格は無い。自信を持って望むのは大いに結構だが、多くは過信となって命を落とすことを岩本は知っ
ているが、それを正す意志など無い。そんな事をしなくとも生き延びる奴は生き延びるし、死ぬ奴は
死ぬのだ。
岩本は新人二人に突出し過ぎないよう釘を刺すと、残りの隊員に可能な限り新人のフォローを努め
るよう指示を出した。それを待っていたように、司令部が交戦へのカウントダウンを開始する。
静寂の中で刻まれていくカウントはやがて〇となり、戦いの火蓋は切って落とされた。
洋上に展開した艦隊の艦砲射撃と共に、前面に展開した戦機刃と戦車の防衛部隊が一斉に攻撃を
開始する。だが、数に勝るH.E.B.Lの群れを押し留めるのは容易ではない。取り付かれぬ様に間合い
を計りながら、戦車を護衛するよう防衛部隊が徐々に後退を始め、各突撃中隊の制圧砲撃部隊が
彼らの後退を支援する。その後方からは、突撃部隊が続々と機体を上空へ舞い上がらせ、支援砲
撃に当たらぬよう気を付けつつ、防衛部隊と入れ替わるように前線へと躍り出た。
戦車部隊に多少の損害は出たが、戦線全体から考慮すれば軽微なものである。
地上と空中からの集中攻撃でH.E.B.Lの足を止め、戦車部隊が安全圏まで離脱する時間を作り出す。
各突撃中隊は艦砲射撃が相手を吹き飛ばす僅かな時間を使って弾倉の再装填を済ませると、今度
は防衛部隊の後退を支援するために機体を降下させていく。
そのまま一斉射撃で弾幕を張って侵攻を鈍らせると、各中隊の突撃前衛と強襲前衛が敵陣を切り
裂くように飛び込み、タイミングを併せるように防衛部隊は急速後退する。
その一連の動きは日本帝国軍の練度の高さを示すものでもあった。

「ふん。ちょろいちょろい」
飛び掛る闘士型を斬り伏せ、銃弾によって殴殺していく黄色のカラーリングを施された不知火。その
コックピット内部で、但馬参尉は拍子抜けしたような感想を漏らした。
戦闘開始から四分経過したが、ここまでは幾度となく繰り返してきたシミュレーションの範疇を出てい
ない。当然シミュレーションでの被撃墜経験など無い但馬参尉にとって、訓練通りの成果と言えた。
「大袈裟すぎ。何が死の一〇分だよ」
『そうそう。俺らには関係ねえっての』
初陣ながら想定内の結果で心理的余裕も広がったのか、小林は迫り来る闘士型を仕留めながら但
馬の言葉に応じる。
『無駄口叩いている暇は無い。フォックスⅡを中心に、Ⅴ・Ⅵで虐殺型を喰い止める。他は闘士型が
取り付かないよう援護しろ』
『了解』
闘士型の後方から侵攻する虐殺型との距離が詰まる。それに気付いた岩本の指示が通信機から飛
び、二機の不知火と一機の陽炎が隊列から前方に出る。虐殺型の迎撃に加われず抗議の声を上げ
た但馬参尉だったが、岩本から経験不足を理由にあっさりと窘められた。
政治的立場では譜代武家の但馬が上だが、軍隊での立場は外様武家といえど中隊長の岩本が上
になる。よって但馬参尉は、岩本弐尉の命令に従う義務が生じる。
不承不承ながら但馬が命令に従い自重した次の瞬間、敵の攻撃は一気に激しさを増した。尤も、実
際は三機分の戦力が別方面に回った事で一機当たりの対処する数が増え、敵の攻撃が激しさを増
したと錯覚しているだけだが、突然の戦況変化は不慣れな但馬を動揺させるには十分だった。
動揺は焦りへと繋がり、機体操作に精彩を欠いていく。加えて他の隊員は目の前の敵の対処に追
われ、但馬参尉を容易に援護出来る状況には無い。それは虐殺型の足止めに向かった三機も同様
であり、彼らも包囲されぬよう闘士型を牽制しつつ虐殺型の対処を余儀なくされている。
初めて経験する圧倒的物量を背景としたH.E.B.Lの猛攻を前に、実戦経験不足を露呈した但馬から
先程までの余裕は完全に失われていた。
「次から次へと……小林、援護しろ!」
『出来るならやってる!こっちもそれどころじゃねえんだよ』
危険な状況になりつつあることを察し、悲痛な声で同期に助けを求めた但馬参尉だが、通信機から
は小林参尉の怒声が伝わる。これに対し怒鳴り返そうとした次の瞬間、左前方から強い衝撃を受け
た機体が地面に仰向けで倒れ込んでいくのを自覚した。
小林に注意が逸れた一瞬の隙を突くように、彼の機体に数体の闘士型が取り付いたのだ。
『フォックスⅣ、やれるか?』
『――――ここからは無理』
危機に気付いた岩本の要請を受けた向島沙由利は、状況を確認して簡潔に答えた。但馬参尉の不
知火に取り付いた闘士型は、彼女の立ち位置からはコックピットブロックを覆い隠すように存在して
おり、射撃で排除するには操縦席ごと撃ち抜く以外の手段が存在しない。
如何に帝国陸軍屈指の射撃の名手と云われる彼女でも、この状況でコックピットブロックに傷を付け
ず闘士型を排除する事は不可能である。
近接戦闘で排除しようにも、各々が目の前の敵の対処に神経を集中している状況下では、それもま
まならない。強引に助け出そうとすれば他の隊員の負荷が増し、犠牲者の増加に繋がりかねない。
「何やってんだよ!早く助けろよ」
機体が複数の闘士型によって取り押さえられ、自力で振りほどく事が困難な状況をセンサーが告げ
る中、半狂乱になりながら但馬は周囲に助けを求めて叫んだ。
衛士の生存率を少しでも高めるため、戦機刃には緊急時にコックピットブロックだけを機体から切り
離す脱出装置が搭載されている。岩本らはそれを用いた緊急脱出を促すが、恐慌状態に陥りなが
ら叫ぶ但馬の耳にその声が届かない。
「嫌だ……死にたくない……死にたくないよ……」
ベタベタと機体を這い回る音、そして強い力でフレームが捻じ曲げられる音が聞こえ、搭乗口が引
き剥がされようとしている事を悟ると但馬参尉は恐怖に慄きながら呟いた。
『一時後退。隊列を立て直す』
但馬参尉の不知火が闘士型に搭乗口を引き剥がされた直後、岩本は揮下の隊員に空中への退避
命令を発した。それは但馬参尉を見捨てる事を意味している。
非情な命令だが但馬参尉の生還は絶望的であり、彼の穴を埋めずに継続すれば中隊そのものが
全滅する可能性もあり、最悪の場合戦線の崩壊と全軍の潰走に繋がりかねない。
それに比べれば、戦線が一時的に押し込まれるのは致し方ない事だ。
命令を受領した各機が一度上空へと退避し、虐殺型を相手にしていた三機の離脱を支援する。
だが、この動きに唯一対応出来なかったのは初陣として参戦した小林参尉の機体だった。
小林は同じ初陣の但馬が目の前で戦死したことで恐怖に駆られたのか、岩本の命令に反応出来な
かった。彼にとっての不運は、既に上空へ退避していた僚機が虐殺型を相手取った三機の離脱支
援に回っていた事だろう。加えて闘士型に殺される但馬の方に意識が向いてしまった事が追い討ち
を掛け、岩本らが発した早期離脱を促す警告も虚しく、前衛の三機が一時退避を果たした時には彼
の機体も地面に組み伏せられた。
空中からは射撃角度の問題で、横転している機体の上を這い回る闘士型に狙撃を行えない。撃て
ば機体の損傷は免れず、自力での脱出は不可能になる。無論近接戦闘で助け出すという手段もあ
るが、この状況下で唯一それが可能な試作第三世代型を駆る如月舞依は、機体整備の関係上今
回の戦闘に随伴していない。
その為機体が闘士型に組み伏せられた時点で、小林参尉を助け出す手段は無かった。
戦闘開始から七分――――
但馬・小林の両参尉は数多の新兵同様、死の一〇分を乗り越えることなく戦場に散っていった。

「あの新人、言いたい放題に言いやがって」
「何でキミが怒ってるのさ」
「お前のせいだろうが!」
悪態を吐きながら廊下を歩く同僚を諌めようとした鷹梨浩太だったが、弘田圭一の言葉に顔を引き
攣らせて苦笑いを浮かべるしかなかった。
「なんでだよ!」
北陸第四駐屯地第参格納庫に、叩きつけるような音と大きな声が響き渡る。整備スタッフが何事か
と驚いて作業を中断し、音のした方向を振り返ると二人の衛士を中心に人だかりが出来ていた。
機体を降りたばかりの鷹梨浩太は装甲に押し付けられるよう、軍服姿の若い衛士から掴み掛かられ
責められている。一方陽炎の機体整備を担当する若い整備兵は、突然の出来事に二人の仲裁に入
ることが出来ず狽えていた。
浩太に詰め寄っているのは戦死した但馬と小林の両参尉と同期で、今回は出撃を見送られた梶原
参尉である。彼ら三人は同じ教練学校出身者であり、部隊配属後も共に行動することが多かった。
但馬・小林両参尉と最も付き合いが長く、最も親しかったのが彼である。
「なんであいつらが死ななきゃならないんだよ!」
そう問い詰められた浩太は済まなさそうに謝罪し、他の者達はそれに対し口を挟まない。
戦場に於いて死は常に付き纏うものであり、親しい人間を失うのは日常茶飯事とも言える。だが、そ
れを頭で理解しようと、感情の部分で容易に納得出来ないのもまた事実なのだ。それが新兵なら尚
更であり、彼らがこうして理不尽な怒りをぶつけるのは珍しいことではない。
言い換えれば、これもまた衛士としての通過儀礼である。
何も言い返さないのを良いことに、梶原はここぞとばかりに罵詈雑言を並べ立てて非難し、浩太の左
頬を殴りつける。胸倉を掴んで浩太を強引に立ち上がらせた梶原だが、振り上げた拳を背後から押
し留められ、もう一度殴りつけることは適わなかった。
「もう、その辺りで良いだろう」
梶原の動きを制した岩本が、言外に「これ以上は処罰の対象になる」と告げる。
怒りの対象を睨みつけていた彼は、忌々しそうに舌打ちすると浩太を離し岩本の手を振り解く。その
まま浩太に対し「さっさとくたばれ!」と捨て台詞を叩きつけると、踵を返してその場を歩み去った。
それを合図としたように場を支配していた緊張の糸が緩み、事の成り行きを見守っていた整備兵た
ちは何事も無かったかのように本来の作業へと戻っていく。
それが二〇分前に起こった出来事であり、梶原参尉の物言いも然る事ながら、不当な怒りに抗弁し
ない浩太の態度も相俟って弘田圭一の怒りも収まらずにいた。
「でもまあ、僕達も一年前に経験した事だし」
「そりゃあ、確かにそうだが……」
浩太の言葉に、圭一は沈痛な面持ちで答える。
一年前、当時損耗率の高かった第弐突撃中隊に配属された衛士は彼らを含めて八人居たが、そ
のうち五人が初陣で命を落とし、一人は二ヶ月後の戦闘で散った。何人かは決して親しい間柄では
なかったが、それでも同期の仲間が死んでいくのを見るのは辛いものがあった。
その経験があるから圭一には梶原の気持ちを理解出来るが、それと感情面で納得するのは別問
題であり、平然と受け流せる度量が無いからこそ怒りを感じているのだ。
「だからって、あそこまで言う権利があるのか?」
「言う権利くらいは、あるんじゃないかな。僕が一番弱いのは事実だし、足を引っ張って死なせたと
非難されても否定出来る材料が無いからね」
自嘲気味に語る浩太に呆れながらも、圭一は彼の発言の正しさを認めざるを得ない。浩太が新人
を含む隊員の中で、実力的に最も劣っているのは動かし難い事実だからだ。
如月舞依に剣術の指南を受け始めてから以前より短期間で向上しているものの、実力不足は誰の
目にも明らかである。まして梶原参尉は着任から日が浅く、特に戦死した二人の実力を良く知るだ
けに浩太を足手纏いと判断しても不思議ではない。
「よくもまあ、そういう思考が出来るもんだよ。腹が立たないのか?」
「そりゃあ腹は立つけど、彼の方がもっと腹が立ってるんだし仕方ないさ」
そんな発言に半ば呆れながら、圭一は一抹の不安を抱える。
浩太の言い分は他人の批判を受け止める器の大きさと捉えがちだが、その実他人の心理や思考
を優先する自己犠牲的な意味合いが非常に強いように思われる。圭一はこれが、後々命取りにな
りはしないか?という不安が拭い去れない。
だからつい忠告してしまうのだ。「簡単に死ぬな」と。

[to be continued]

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