Possibility alternative Ⅰ(10/11) [小説]

これはチラシの裏に書き留めるような駄文です。
どっかで見たような設定だったりしても気にしない!というか気にする人は読まない方がいいです。
この物語はフィクションです。
登場する人物・地名・団体は実在しませんし、似ていても全くの別物です。
駄文を読みたい方はそれを理解した上で、自己責任の下続きをご覧ください。



皇紀2661年(西暦2001年)5月8日
皇都・帝国騎衛軍第拾陸騎衛師団第参隊舎 AM10:24――――
征夷大将軍直属部隊であり皇室警護も兼任する騎衛士団は、皇宮周辺に設置された三ヶ所の隊舎
に六小隊編成で詰めているが、如月舞依はその隊舎の廊下を歩きながら戸惑いを感じていた。
本来自分が在るべき場所へ戻ってきたにも拘らず、なんとなく居心地の悪さを覚える。
その要因の一つは、周囲の隊員たちの反応にあった。
すれ違った者の多くは遠巻きに、或いは腫れ物に触るような緊張の面持ちで如月舞依を見ている。
それを極力気にしないよう歩いていた舞依は、廊下の曲がり角で出会い頭に他の隊員と衝突した。
咄嗟に片足を後ろに引き、上手く衝撃を逃がすことで辛うじて踏み止まった舞依に対し、もう一方の
当事者である女性隊員は派手に尻餅をついて倒れ込んだ。
廊下には彼女の所持していたファイルが散乱する。
「す、すみませ――――」
ぶつかった女性隊員は顔を見上げ、思わず息を呑む。彼女の顔が恐怖で引き攣り始め、慌てて床
に散らばったファイルを掻き集めると直立し敬礼するが、左脇に抱えたファイルを再び床に取り落と
してしまう。
「失礼致しました、如月参尉」
「――――いや、私にも不注意があった。壱曹だけの責任ではあるまい」
慄きながら敬礼を施す女性隊員に苦笑しつつ、舞依はファイルを拾い上げて彼女の前に差し出す。
「何を慌てていたか知らぬが、次からは十分注意することだ」
壱曹と呼ばれた女性隊員は呆けた様に舞依を見ていたが、我に返ると慌ててファイルを受け取り、
再び敬礼して小走りに去っていく。また、事の成り行きを見守っていた他の隊員たちの間から小さな
どよめきが起こっていた。そんな周囲の反応に舞依は首を傾げながら目的の場所へ歩みを進める。
やがて一つの部屋の前で立ち止まると、一呼吸を置いて扉をノックした。
入室を促された舞依は扉を押し開き、部屋の中へと足を踏み入れる。
騎衛士団に所属する衛士の私室はそこそこの広さを持つが、小隊長の執務室であるその部屋は兵
士の私室と比して倍近く広い。その部屋の主であり直属の上官である郡山貴音は、執務卓の上に
載った書類の山に目を通していたが、来訪者の入室と同時に作業を一時中断して立ち上がる。
「如月舞依参等陸尉、北陸方面防衛部隊への出向任務を終え只今帰還致しました。原隊復帰の許
可を願います」
「任務ご苦労。帝国騎衛軍郡山小隊隊長として、貴官の本小隊への復帰を承認する」
踵を揃える様に直立し、指先まで綺麗に伸ばした左腕を体の側面に付ける。顎を引き過ぎず背筋を
伸ばし、右肘を肩と水平の高さまで上げ、指先まで綺麗な直線を描く右手を右のこめかみに宛がう。
一分の無駄も無い、教本のように綺麗な帝国陸軍式敬礼で、如月舞依は自身の帰還を報告する。
その一方で郡山貴音も答礼し、彼女の復帰を承認する。形式的な挨拶に過ぎないが、大事な手続き
であり、小隊指揮官たる貴音の承認によって舞依の所属は正式に帝国騎衛軍へ戻る事になる。
尤も、夜間警護を担当した郡山小隊の任務は〇八三〇時に引き継ぎを終えている。そのため原隊
復帰した舞依に下された命令は、出向報告書の作成と翌日一六〇〇時までの休息だった。
「隊長――――極めて個人的なことですが、質問をしても宜しいでしょうか?」
「構わないが、どうかしたのか?」
新たな命令を受領し、一度は部屋を辞しかけた如月舞依が口を開く。再開していた作業を再び中断
した郡山貴音が先を促すと、舞依は先程廊下で遭遇した件とそれに伴う周囲の反応の違和感を口
にした。不在だった二ヶ月の間に、何が変わったのだろうか?と。
少々意外な質問に驚きを禁じえなかった郡山貴音だが、その理由については容易に推測出来た。
貴音が知る限り、数名の新兵が加わった以外で騎衛軍に変化は無い。ただ一人、明確な変化があ
ったのは他ならぬ如月舞依自身だが、どうやら本人はそれに気付いてないらしい。だからこそ、彼
女は周囲が変化したように感じているのだろう、と貴音は結論付けた。
そもそも彼女が知る限り、如月舞依という人物は軍務と関わりの無い会話を好まず、他者とのコミュ
ニケーションを極力避ける傾向が強くあった。それ故に周囲から疎まれたり煙たがられる事も多く孤
立しがちだったが、以前の彼女自身は気にする素振りすら見せていなかったのだ。
「つまり、私が変わっただけだと?」
「その通りだな。二ヶ月前の貴官なら、そこに疑問も抱かず質問する事も無かっただろう。それはこ
の二ヶ月間で貴官が変化した、成長したと言い換えても良いが、その何よりの証だと思うがな」
思案する素振りを見せたのは、恐らく二ヶ月前までの自分を振り返っていたのだろう。やがて舞依
は、成る程と頷いて貴音の言葉に納得してみせた。
「ひょっとして、男と恋仲にでもなったか?」
「――――どこからどうやって、そういう推測に至ったのか。出来ればお聞かせ願いたいのですが」
「んー……女の勘?」
貴音は右手の人差し指を立てたまま頬に触れ、媚びるように小首を傾げながら疑問形で答える。
それに対し、舞依はやれやれと言った態で溜息を吐くと会話を打ち切り、翌日昼の報告書提出を確
約して執務室を辞していった。
「変われば変わるものだけど、本当に違ったのかな?」
舞依が去った執務室の中で、貴音が一人呟く。
私的な会話を切り出すことも、また会話中の行動も、かつての舞依なら決して見せなかった姿だ。
環境が人を変えるのは往々にしてある事だが、最も人を変える要因の一つは異性の存在で、相手
と親しい間柄になればなるほど、その影響力は強くなる。
だからこそ出向先の異性、とりわけ特定の異性と結び付きを強くしたが故の変化だと貴音は考えた
訳だが、舞依本人はそれを否定した。尤も、単純に舞依がそういう認識に至っていないだけ、という
可能性は否定出来ないが、兎にも角にも貴音の懸念事項だった舞依の問題に解決の目処が立っ
たのは事実である。実力は折り紙付きも、信頼関係の構築が致命的なまでに出来なかった如月舞
依だが、以前よりも積極的なコミュニケーションを図ることで小隊内に於ける信頼関係を構築するこ
とも可能だろう。そうなれば、彼女の問題は時間が解決してくれる。
僅かの間、肩の荷の一つが降りた事に安堵感を抱いていた郡山貴音だったが、小さく気合を入れ
ると山積した書類を片付けるため、中断していた作業を再開した。

日本帝国軍は毎年三月末に新兵を補充する。当然ながら補充人員が一番多いのは損耗率が最も
高い衛士だが、後方支援の役割を担う兵士の補充も行われる事になる。
北陸方面第四駐屯地に勤務する日高章平弐等陸曹もまた一年間の教練を終え、16歳になったこ
の春に着任した新兵の一人である。
日本帝国では衛士を始めとする兵士の損耗率から、徴兵制度は度重なる法改正によって男女間や
身分の垣根が撤廃されたのみならず、20歳以上40歳未満とされていた兵役従事の年齢も義務教
育課程を修めた15歳以上65歳以下の者へと大幅に改正されていた。
云わば「国民総動員体制」を布いている訳だが独力では抗し切れず、国連軍の力を借りなければ
国土の奪還や防衛もおぼつかないのが日本帝国軍の現状である。
「静かなものだな。このまま夜が明けてくれると良いんだが」
章平は教育係であり、共に駐屯地北側の監視塔に詰める川村亮一壱等陸曹の言葉に同意する。
北方の第二駐屯地駐留部隊が山間部を侵攻してきた少数のH.E.B.L群を迎撃したのは、日付が変
わるかどうかという時間帯。以降は二次侵攻に備えて警戒態勢に移行し、既に一時間以上が経過
している。夜行性に近い習性を持つ彼らが日中に侵攻する事は稀であり、朝まで侵攻が無ければ
一安心と言えた。裏を返せばあと五時間弱の間、彼らの侵攻に目を光らせる必要があるのだ。
尤も、実際に目を光らせるのは警戒線上に設置されたセンサーたちだが。
「そういえばうちの部隊、昼間は随分嬉しそうでしたが何があったんですかね?」
「あれは鷹梨参尉殿の件だろ」
川村壱曹はトランプをシャッフルすると、自分と章平にカードを一枚づつ配りながら答える。
章平が配属されている第弐突撃中隊所属衛士の中で、鷹梨浩太だけが試験第二世代型の機体に
搭乗している。高い性能を持つ機体は、それを扱うに足る技術が要求されるが、浩太には本来の主
力機を扱う技量が不足していた。それを補う苦肉の策でもあったが、今回の戦闘シミュレーションに
於いて主力機を扱うに足る十分な成果を残したのだ。
一年遅れだが、格納庫で練習機と化していた彼の不知火を実戦投入する目処が立ったのだ。
「まあ一年も主力機を遊ばせとくなんて普通は考えられんけど、うちは特殊だからなあ」
「と、言うと?」
「うちはほら。最前線部隊の中でも戦果は高い方だし、損耗率も低いからやたら戦場に駆り出され
るわけで、予備の機体とか保有していてもある程度は大目に見て貰えてるんだろうな」
川村壱曹は手元の5枚の内3枚のカードを場に出すと、山札から新たに3枚を引きながら答える。
尤も川村壱曹の説明は一部正しいが、それが全てではない。
戦機刃に搭載しているOSは操縦に於ける衛士個人の思考や癖を学習し、その情報を基にして機
体制御を補助している。云わばワンオフ機に近い代物であり、その為複数の衛士が同一の機体を
用いる事は滅多に無い。また、衛士の損耗理由は戦死が八割以上を占めている為、当然ながら機
体が失われる可能性も高く、基本的に衛士を補充する際は機体も同時に補充される。
これが鷹梨浩太が搭乗する予定の不知火を、一年以上も遊ばせながら問題視されなかった理由
の一つでもある。
川村壱曹同様に、章平も3枚のカードを交換する。金銭賭博は軍規違反だが、彼らはどちらが飲
み物代を出すか賭けて、ポーカーの真っ最中である。当然ながら掛け金の上乗せは無いが降りる
事も出来ず、かと言って互いにイカサマが使えるわけでもない完全な運任せの勝負。
お互いに一度づつカードを交換し、あとは白黒付けるために役を明かすだけという段になって、突
如アラームが鳴り出した。章平は勝負に水を差されたような気分になりつつ、反応のあった計器を
確認する。
駐屯地を囲む鉄柵に設置されたセンサーが反応し、東側の柵が破損した事を告げていた。夜間監
視用の光学双眼鏡で確認すると、4m以上の高さを持つ鉄柵が内側に向けて最上部から大きく裂
かれているのが見えたが、建物の死角に入り込んだのか侵入者と思しき影は見当たらなかった。
「こいつは……まさか」
野生動物が入り込んだと思っていた章平の隣で、鉄柵の様子を確認した川村壱曹が呟く。その意
味を図りかねて問い返そうとした次の瞬間、鈍く大きな音と共に監視塔が激しく揺さぶられた。
何が起こったか理解が及ばない章平に対し、川村は青褪めた顔で非常警報の発令を指示する。
章平が監視塔を襲う横揺れに戸惑いつつ、プラスチックカバーを叩き割るように非常警報用スイッ
チを入れた次の瞬間、轟音と共に鉄製の扉が室内へ吹き飛ぶ。入り口を振り返った章平は、扉が
失われた枠に、赤黒い巨大な手が幾つも掛かっている事に気付き川村に意見を求めるが、答えが
返ってくる事は無い。不審に思って振り返ると、拉げて吹き飛ばされた扉と壁の間に挟まれ、即に
事切れた川村の姿を見出した。
恐怖に腰が抜け座り込んでいたところを、首根っこを掴まれる様にしながら後方に引き出された章
平は、初めて襲撃者の正体を目の当たりにする。
室内から漏れ出す照明に照らし出された赤褐色の全身に、腕のような形状を持つ六本の脚。頭に
当たる部分には大きな口があるだけで、尻尾に当たる触覚器の先端は人の顔のような形状をして
いるそれは、紛れも無く闘士型と呼ばれる小型H.E.B.Lの一種だった。


[to be continued]

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