Possibility alternative Ⅰ(09/11) [小説]

これはチラシの裏に書き留めるような駄文です。
どっかで見たような設定だったりしても気にしない!というか気にする人は読まない方がいいです。
この物語はフィクションです。
登場する人物・地名・団体は実在しませんし、似ていても全くの別物です。
駄文を読みたい方はそれを理解した上で、自己責任の下続きをご覧ください。



通常、部隊の長期駐留が想定される基地や駐屯地は男女別で専用宿舎が用意されるが、第四駐屯
地には男女別の宿舎が用意されていない。
これは正規の基地機能を持たせず、仮の駐屯地として機能すれば十分であった事から、意図的に用
意されなかったためである。
故に一応の配慮は為されているが、一つの隊舎に男女の私室が混在する形となっていた。
第弐突撃中隊が用いる第参隊舎の私室は、通路を分岐させる事で男女に区切っている。その分岐
点で壁に背中を預けながら、如月舞依は格納庫での出来事を一人思い返していた。
「もっと早く仲裁に入った方が良かったのでは?」
梶原参尉が立ち去った後、最終的に事を納めた岩本恒張に対し如月舞依が疑問を投げかけた。
初陣に於ける衛士の生存確率が三割に満たないのは常識であり、死の一〇分間に於ける戦死確率
が七割を上回るとは教練学校でも散々言われている。非情な言い方をすれば新兵は死ぬのが当た
り前で、無事に生還出来ればそれだけで幸運な事なのだ。その前提から考えれば、梶原参尉の言い
分は単なる誹謗中傷と受け取る事も出来るが、岩本の答えは「否」だった。
「確かに生き残っている者の多くは、戦場に於いて誰かの死を看取ってきた。言い換えれば二人の
死は当たり前の事であり、騒ぎ立てる事でもないだろう。だが経験の浅い者には、必ずしもそうとは
言い切れん」
「それは理解している。だが――――」
「如月参尉、貴官は『理解しているつもり』になっていないか?」
意外な一言で二の句を継げなくなった舞依に対し、岩本は少し話題を変えた。
「参尉は軍が死者数の公表をしない理由を知っているか?」
「――――余りにも数が多く、公表しきれないからだと記憶しております」
人類とH.E.B.Lとの戦いに関しては義務教育期間や教練学校時代の座学でも履修される。
H.E.B.Lとの開戦当初は戦死者の数や姓名が公表されていた。これは人類を脅威から護るために勇
敢に戦い、散っていった英霊に対する弔いの意味も込められていたが、長引く戦争に伴う死者の増
加から人類は死者を数えるのを止めてしまった。
表向きは公表しきれないというものだが本当の理由は別にあり、端的に言えば諦めたわけである。
当初は戦意高揚と士気向上の目的で公表されていたが、戦いが長引けばそれは絶望感に取って代
わる戦意喪失の材料でしかない。
尤も帝国軍は現在でも戦死者の記録を取り続けているが、それが伝えられるのは死者の身内だけ
に限られ、総数が公表される事は決してない。また、あくまでも帝国軍に属するものだけであり、国連
を始めとする国外機関に所属するものは対象外となっている。
「そうだ。だがこれは現実を受け入れたと言うより、現実に慣れたと言うべきだろう。死んでいくのが
当たり前なのだから、その数を知ることに意味は無い。しかしそれは大局的な、全体を見渡したとき
であり、個人レベルで最初から現実に慣れているものなど稀有な存在だ」
成る程――――と岩本の言葉に、舞依は納得する。
如月舞依は軍組織という視点に立って騒動を見ていたが、岩本恒張は梶原個人の視点に立って見
ていた。要するに、立ち位置の違いが見解の違いに繋がっていたわけである。そこまでは理解出来
たが、それだけでは些か腑に落ちない。舞依は結局最初の質問に戻ったわけだが、それに対して
岩本は「負の感情というのは、内に篭れば篭るほど根が深くなるものだ」と返してきた。
「蟠りを抱えるにしても、感情を表に出すのと内に抑え込むのでは与える影響は異なる。貴官の言う
通りに早い段階で止めていれば、梶原参尉の負の感情は内側に鬱積してしまうだろう。彼の憎悪が
常に味方に向いているのは、危険な事だと思わないか?」
「だから、敢えて止めなかった、と?」
舞依の問いかけを肯定するように岩本は頷き、言葉を続ける。
「人は経験によって理性で抑制する事は可能でも、感情による衝動からは決して逃れられない。もし
も逃れる事が適うのであれば、それは『人として壊れている者だけ』だろう」
岩本はそう会話を締め括ると、自らも着替えるためにその場を辞していった。
確かに梶原参尉は戦死した但馬・小林の両参尉とも仲が良く、鷹梨浩太を見下すような傾向が見ら
れたのは事実だ。尤もそれは、訓練に於ける浩太の技能を加味した上での対応であり、必ずしも非
武家出自者に対する優越感ばかりが原因とは言い難い、というのが舞依の評価だった。
だからこそ二人が戦死した理由を浩太に求めたのは、当然の帰結だと考えられる。そして早めの仲
裁を行わなかった理由は、鬱積した憎悪から戦場のどさくさに紛れて梶原が浩太を背後から撃つ可
能性を考慮したのだろうと推測は出来た。それは部隊を危険に晒しかねない暴挙であり、何よりも
味方殺しの汚名を被る行為だが、怒りや怨嗟の度合いが強ければ一線を踏み越えかねない。
その危険な芽を予め摘むという点に於いて岩本の判断は正しいが、問題は嫌な役回りを務める事
となった鷹梨浩太が納得しているかだろう。
外見と比して鷹梨浩太は意外と敏い、というのが舞依の評価だが、それと感情は別問題だ。場の空
気を読み、与えられた役割をこなせるということは、裏を返せば他者に対して本心を見せないのと同
義である。実際に彼がどう思っているかは、浩太本人にしか判らない。
「おやおや、今度はお姫様の登場か。今日はモテモテだな?」
「一言余計だよ」
隊員の私室へと続く通路に姿を表したのは二人の衛士。そのうちの一人である弘田圭一は、声を掛
けるより早く彼女の存在に気付いた。
圭一は余計な気を回したのか一人で私室へと戻っていく。尤も、その際に要らぬ一言を発し、舞依か
ら睨みつけられたわけだが。
「――――あまり落ち込んでいないようだな」
「まあ、皆さんに代わる代わる心配されましたから、落ち込む暇が無かったというか」
舞依の質問に対し、照れくさそうに浩太が答えた。
そもそも第弐突撃中隊は馴れ合いだけで成り立っておらず、誰か一人に責任を負わせる部隊でもな
い。締めるべき時は締めるが、同時に互いをきちんとフォローし合っている。
だが彼女が浩太に会う必要があると感じたのは、もっと別の理由だ。
「ひょっとして、心配して励ましに来て頂けたのでしょうか?でしたら――――」
「いや、心配したのは事実だが、励まそうと思っていたわけではない」
「と、仰いますと?」
「貴官が『自分のせいで死んだ』などと愚かな思考をしていないか、という心配はした。が……どうや
ら図星だったようだな」
自身の発言に浩太の表情が強張ったのを見て、舞依はやれやれといった態で頭を振って嘆息した。
「仲間に生きていて欲しいと思うことが、愚かですか?」
「皆を護りたいという貴官の想いは否定しない。それは貴官の理念であり信念だが、それを否定する
権利は私には無いからな」
「だったら――――」
「愚かだと言っているのは、貴官が『二人の死の原因が自分だけにある』と思い込んでいる点だ。そ
んなもの、貴官の思い上がりに過ぎん」
「そんなの、僕が一番弱いんだから仕方ないだろ!僕が弱かったから、彼らを助ける事が出来なか
った。僕がもっと強ければ、彼らは死なずに済んだ」
「それが思い上がりだと言うのだ!!」
珍しく感情を昂らせて怒鳴る鷹梨浩太を、如月舞依が一喝する。
第一、新人二人の戦死について責任を問われるなら舞依にもその一端は存在する。何より最も責
任が重いのは、指揮官の岩本である。結局今回の騒動は浩太が代表して怒りの矛先を向けられた
に過ぎず、責任は中隊全体に帰するものだ。
滅多に出さない怒りの感情を露わにする浩太と冷徹な視線で対峙する舞依。
二人の間にある空気は険悪なものとなり、一触即発の様相を呈しているが、それでも舞依は浩太を
観察しつつ、彼が冷静さを取り戻すタイミングを計っている。
「――――謙遜も度を過ぎれば卑屈に聞こえる。以前私が、そう言ったのを覚えているか?」
切り出した言葉に対して思案するような素振りを見せた後、浩太が無言で頷いた。それはつまり感
情の昂りが収まり、思考を行えるだけの冷静さを取り戻している証左でもある。
「単純な実力で言えば貴官は誰よりも弱いし、それに異を挟む者など居ないだろう。だが、仮に貴官
の実力と二人の死に因果関係が認められても、それは一部だけだ。決して全てではない」
「違う!あれは僕が――――僕の」
「そうやって『全て自分の責任だと思い込むことは、死者に対する侮蔑』だと何故気付かない!」
舞依の思いがけない発言に対し、浩太は二の句を継げず押し黙ってしまう。
戦場に於いて個々の実力が部隊の生存に寄与する事はあっても、特定個人の実力が部隊の命運を
左右することは滅多にありえない。また、そのような事態で全責任を負うのは該当する特定個人を用
いた部隊指揮官であり、一兵士が負うものではない。
誰かを助けたい、護りたいという鷹梨浩太の意志は敬服に値するものだが、それは度を越せば対象
を軽んじる結果に繋がる。例え鷹梨浩太がそうと意識せずとも、指揮官ではない彼が責任を全て背
負い込むという行為は、裏を返せば中隊の実力に対する不信とも捉える事が出来るのだ。
従って強迫観念のように一人で背負い込もうとする行為が、思い上がりと評されたのも致し方ないこ
とである。
互いに沈黙が続き、浩太は何か抗弁しようと試みるが思考は空転して言葉が浮かんでこない。
一方で舞依は小さく溜息を吐くと詰め寄るように浩太へと近付き、暫く目を閉じているように告げた。
虚を突かれる形になった浩太だが、ここは抵抗しない方が良いと判断して大人しく指示に従った次の
瞬間、何かを押し付けられるような感覚に驚いて反射的に目を開けてしまった。
「――――目を開けて良いとは言っていない」
両腕を脇下から背中へと回し、互いの体を密着させるように形で正面から抱きついたまま、舞依は
上目遣いに見上げて注意を促す。浩太は言われるまま再び目を閉じたが、突然の行動に思考が追
い付かず内心では激しい混乱の渦中にあった。
「判るか、鷹梨浩太?――――私は今、此処に居る」
混乱していたのは数分だったのか、それとも数秒だったのか、舞依が発した言葉でようやく平静を取
り戻し始めた。鼻腔を微かに擽る洗髪料の香りと、服越しに伝わる感触が浩太に対して存在感を訴
えかける。如月舞依という存在を感じ取りながら浩太は小さく頷くと、彼女の体を抱きしめるように両
腕を恐る恐る背後へと回した。
「私を感じることで理解し、認識しろ。貴官は決して一人で戦っているわけではない。全ての責任を貴
官一人が背負う理由など無いということを。だから――――」
不慣れな行動と想定外の浩太の反応に頬を赤く染めながら、それでも動揺を押し隠した声音で舞依
が告げる。「だから、必要以上に自分を責めずとも良いのだ」と――――

皇紀2661年(西暦2001年)5月7日 石川県日本帝国軍北陸方面防衛隊第四駐屯地――――
「それでは、全員の無事な帰還と第弐突撃中隊の新たなる仲間の歓迎、更には如月参尉と向島参
尉の新たな門出を祝いまして。乾杯!」
隊舎の食堂に弘田圭一参等陸尉の音頭が響き渡り、集まった第弐突撃中隊のメンバーから乾杯の
唱和が上がった。各々がグラスの中身を飲み干すと、場の至る所で談笑が始まる。
本来は新人の歓迎会と異動が決まっていた向島沙由利の送別会として開かれる予定だったが、如
月舞依の任期終了が近付いていたこともあり、彼女の送別会も兼ねてギリギリまで延期した背景が
あった。無論H.E.B.Lの侵攻に対する警戒はしているが、何事も無ければ如月舞依は本日で任期終
了となり、帝国騎衛軍へ復隊するため明日の早朝には皇都へ発つ事になっている。同様に向島沙
由利も第三世代型量産機開発計画に参加するため、明朝には次の配属先へと出立する。
元々が期間限定な舞依と異なり、正確な射撃技術を持つ沙由利は中隊にとって貴重な戦力である。
優秀な衛士を前線から外す決定は、現場の部隊から当然異論が噴出した。
尤も向島沙由利自身は、「上からの命令だし、仕方が無い」とあっさりしたものだが、彼女が配属さ
れる試験小隊は帝国軍次期主力兵器開発の要とも言える部署になる。
そういった事情も相俟って、大きな欠員が無い第弐突撃中隊に四人の新人衛士が配属されたのは
三月末の事。うち二人は死の一〇分を乗り越えられず、現在は生き残った新人二名を含む一四人
で構成されている。ただし今日までの話で、明日以降は再び正規の一二人編成となるのだが。
「飲み物を所持する相手に背後からセクハラするのは止めた方が良いそ、小嶋参尉」
如月舞依の一言で、背後から忍び寄っていた人物がピタリと動きを止める。呆れたような視線を向
けた先には、小嶋和泉参尉が行き場を失った右手で気まずそうに後頭部を掻きながら苦笑いを浮
かべていた。
「やだなぁ、舞依っち。いつから気付いてたのさ?」
「なんとなく、そろそろちょっかいを掛けられそうな気がしただけだ」
「舞依ちゃんも、ようやく和泉のあしらい方を修得したというわけね。感心感心」
うんうんと頷きながら語りかけてきたのは、主賓の一人である向島沙由利参尉だった。
修得したというより修得させられたんだが、などと心中で苦笑する。そもそも着任から二ヶ月間、ほ
ぼ毎日のように絡まれていれば自然と身に付くというものである。
「それで、その後どうなんだよ?」
「どう――――とは?」
「駄目よ舞依ちゃん。お姉さん達を誤魔化そうとしちゃ」
左側から和泉、右側から沙由利に挟み込むよう動きを封じられた後、舞依は小声で尋ねられ小さく
溜息を漏らした。先日の一件で成り行き上個人的に致し方なく及んだ行為だったが、舞依は運悪く
現場を二人に目撃されていた。以来、隙あらばこうして話を聞きに来るのだ。
そして、二人は期待していた答えが返ってこないと、盛大にがっかりするのである。
「ほんと信じらんねえ。熱い抱擁を交わした仲だってのに、その後全く進展なしとかありえなくね?」
「それを貴官らに目撃されたのは、私にとって一生の不覚だがな」
「でも、ちゃんと秘密にしているでしょ?」
その言葉通り、二人は第三者の耳目がある場所でこの話題を振ったことは無い。にも拘らずこの場
で尋ねてきたという事は、何らかの進展があった事を期待したのだろう。尤も、舞依は期待に添えな
くて残念だなどと微塵も思っていないが。
「まさかあれか?騎衛軍は女性が多いから、実は同性愛者だったとでも言うのか?」
「それより鈍感姫とチキン坊やの組み合わせに、無理があったんじゃないかしら?」
「まあ、どっちも異性にモテそうに無いからなあ……特にヘタレは、あの実力と性格じゃ難しいし」
「あら、鈍感姫はモテると思うわよ。本人が気付かないのと、性格に問題があるだけで」
「正統派から外れたイロモノ同士の組み合わせだから、ひょっとしたらと思ったんだがなあ」
「――――随分と言いたい放題だな、貴官らは」
当人そっちのけでコソコソと話し始める二人に対し、さすがに舞依が口を挟む。その言葉に二人は
同時に舞依の顔を見やると、再びコソコソと会話を再開した。吊り橋効果が薄かっただの、押しが弱
すぎるだの、鈍感力が高過ぎてフラグへし折ってるだのという会話が耳に届き、さすがに呆れた舞依
は小さく頭を振ると二人に気付かれぬようその場を後にした。


[to be continued]

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